こんにちは、調剤事務歴15年のうさぎ太郎です。
薬局って何年勤めていても時々「初めての事例」に出会います。そういった「おそらく今後出会うこともないであろうレアケース」を紹介したいと思います。
今回は・・・【54】の使い方を知らない医療機関に出会ったお話です。
嘘のような実話ですが、そんなことあるの！？とコラムのように読んでいただけると幸いです。
医療事務も医師も【５４】の使い方が分からない病院！？
このレアケースにあたってしまったのは、潰瘍性大腸炎で【54】指定難病の公費を持つMさん（８０代男性）。
通っていた病院がとある事情で急遽閉院し（これも当時地元ではニュースになったおりましたレアケースですが）、紹介状も書いてもらえないまま、突然の病院難民になりました。
Mさんは高齢ゆえ移動手段はタクシーか徒歩のみの患者さんでした。
通院可能かつちゃんと症状を診てくれそうな病院をいくつか提案をしましたが、結局Mさんが選んだのは
近くの病院が「今の薬の処方をそのまま出すことなら出来ます」って言ってくれたから、そこに行くことにするわ。
ということで、特に消化器系の専門医でもない古くからこの地域にある内科の開業医（以下A医院）に引き継いで診てもらうことにしたとのこと。
ほどなくしてMさんはA医院の処方せんを薬局に持ってきました。
処方せんを見てみると、薬はDo処方なのに処方せんの公費欄に【54】の番号の記載がありません。処方せんの記載ミスかな…とも思いましたが、持参された限度額管理票にもA病院が書くべき箇所は空欄のままでした。
MさんにA病院で【54】の保険証見せた？と聞いても明確な答えがない。
病院に「病院での54としての支払金額」と「どの薬を公費対象として扱えばよいか」を問い合わせなければ、こちらの窓口負担の金額に関わります。
問い合わせに加え、一包化するので時間もかかるし、Mさんは「急がんから明日取りに来るよ～。お会計もその時にするよ～。」といったん帰ったのでした。
まずは病院に問い合わせ
私は最初、単なる【54】の記載漏れだろうと思って、身構えることなくA病院に電話してみたのでした。
もしもし、私〇〇薬局のウサギと申します。
本日そちらにおかかりのM様なんですが、この方指定難病の【54】の公費をお持ちなんです。
今回そちらからご処方のお薬は、今までの病院では全て公費の対象となっていまして。
本日の分も全て公費対象ということで良いでしょうか？
あと、【54】の負担管理票も未記入でしたので、そちらでの金額も教えていただけないでしょうか？
【54】？それってなんですか？えっと、どうしたらいいんですか？
（なんか雲行き怪しいな…）
えっと、Mさんは潰瘍性大腸炎で指定難病の受給者証をお持ちなのですが、処方せんには記載がありませんでしたので、全ての薬が公費対象で良いのか教えていただきたくお電話しまして。。。
また、【54】は病院と薬局と合算で月の請求額が決まるのですが、そちらでの領収金額が負担管理票に記載されていませんでしたので、そちらでの本日の【54】での負担金額も教えていただきたく・・・・・
えっと、ん～、どうしたらいいのか分からないので先生に代わります！！！！
え？？（予期せぬ事態で心臓バクバク）
あ、薬局の人？あのねぇ、患者が今まで通りの薬が欲しいって言ったから、うちはその通りに出しただけなのよ。
公費の使い方って言われても分からないのよ。
だから、なんか色々言うんだったらもう公費の利用ナシでよろしく。
（衝撃はしる）
先生、こちらとしては、先生から今日の処方のうちどれが潰瘍性大腸炎に関する薬として処方されているかと、病院でのお会計さえ教えていただければいいいんですが・・・
いや、分からんから。うちは公費使えるように申請はしとるけど、使い方なんか分からんのんよ。だから今回はもう公費ナシで。（指定医療機関として登録はしているけど使用させないの意）
それではMさんのお薬代が本来の金額より高くなってしまうんですよ。お電話で口頭でおっしゃっていただければ処方せんの備考欄に書かせていただくことで完結しますので…！（そっちのレセプトは知らん）
だから、分からんって言っとるじゃろう。
その患者に次回から他の病院に行くように、薬局から言っておいて。備考欄とかもよく分からないから、とにかくうちは公費使わないから。
ガチャ！！！！ ツーツーツー・・・
・・・・ガタガタ ブルブル ・・・・
・・・・・まさかの展開です。
病院から「患者にもう来るな、と伝えておけ」と言われるとは。。。
この病院と私の働いていた薬局はMさんが徒歩で移動できる距離です。
いくらこの開業医が薬局を「病院の金魚のフン」だと認識していたとしても（この病院は基本的に院内処方で、病院で薬を出せない時だけ院外処方を出していたはず）、この距離感の薬局に対してあの対応は驚きです。怖かった。心底怖かった。
数十年開業している病院ですが、いままでどうしていたんだろう。。。もうこの医師に進言できるスタッフはみな逃げてしまったのでしょうか。指定医療機関の登録しているなら今回の疑義照会は受けてほしいし、受けないなら指定医療機関の登録を外してほしい。
心臓が縮まる電話のやりとりを終了し、怒りや悔しいさの感情が湧き上がるものの、うちひしがれて立ち止まるわけにもいかない。なぜなら・・・
病院は公費なしでも特段問題ないかもしれないが、薬局は【54】の有無で患者負担に3000円程の差額が発生するんだよぅ・・・（心臓ギュウ）
という問題があるのです。
主保険１割負担のMさん。病院での１割負担は2000円程度でした（病院の領収書はMさんに見せてもらった）。だから病院側は、とりっぱぐれもなく患者さんからいただきすぎてもなく、困らない。
しかしMさんの【54】上限額は5000円なのである。潰瘍性大腸炎の薬６０日オーバー処方は高額です。病院と合算で上限額を超えます。。。なんとか・・・Mさんを助けられんか。。。。？
後期高齢者医療広域連合に相談してみた
とりあえず、主保険である後期高齢者の広域連合に電話してみました。
審査は国保連合の方なので、そちらにご相談ください
広域連合の対応はあっさりでした。そうか、そうなのね。
国保連合に相談してみた
さぁ、気を取り直して国保に電話してみました。
説明が長くなりますが、ご相談よろしいでしょうか？
実は・・・うんぬんかんぬううううううん・・・
なので、病院のレセプトには【54】記載はありませんが、薬局は全ての薬を【54】の対象として取り扱ってもいいでしょうか？
え！？そんなことあるんですか？
病院の方で処方せんを訂正してもらえることは・・・ないんですね？
はぁ、ちょっと私の一存では返答できかねますので、上の者と相談して折り返します。
ですよね。そして折り返しの電話はこうでした。
上の者と相談したのですが、あまり類を見ないケースで、国保連合では判断はできないということになりました。
ですので、恐れ入りますが、市の窓口にご相談してみてください。（電話番号教えてくれる）
お力になれなくてすみません。
いえ、国保の人は何も悪くありません（心臓ギュウ）。。。さぁ、市の窓口に相談だ！！
市の相談窓口に相談してみた
先に言っておくと、国保と同じやり取りとなりました(笑)
はぁ、あの急遽閉院した病院から…（さすが市は把握している）
で、その次の病院でそんなことが…大変でしたね（すごく親身）
実は僕、ここでそんなにベテランでもなくて（苦笑）・・・すぐ返答できませんが、上司に聞いてみて折り返します！！
この方の対応だけで私の心は洗われました…ありがとう市の職員さん…。
そして折り返しの電話をいただいたのですが、
申し訳ありません。上司に相談してみたんですが、こちらでもやはり判断は致しかねます。
たらい回しみたいになって本当に申し訳ありませんが、電話番号お伝えしますので、県の窓口の方にご相談なさってください。
いいですいいです。親身になってくださってありがとうございました（心臓ギュウ）。。。
ついに県の窓口にて解決！
さて、４度目の正直です。ここまでの長い状況説明も慣れてきました（苦笑）。
はぁぁ、そんなことが。
ちなみにその病院さん、どちらでしょうか？？（実はここで初めて病院名聞かれた！）
それで、国保さんから、市の方からと回ってこられたんですね。うーん、そうなんですね、分かりました。
ちょっとこの件に関しては折り返しにさせてください。
病院と違って、ちゃんと話を聞いてもらえることのありがたさ。やはり即答はしてもらえませんでしたが、さて折り返しの電話がきました。
うさぎさん、今回、その患者さんの医療費は全て【54】の対象として取り扱っていただいてよいと判断されました。
ぁぁぁありがとうございます！おかげさまで患者さんの自己負担が少なく済みます！
ちなみに・・・万が一、突合点検や個別指導でこの処方せんが指導の対象になったら困るので、レセプトに「県の〇〇窓口の〇〇さん了承済み」と摘要欄に記載してもいいですか？
うーん、個人名はちょっと。。。でも後で困るのもいけないので「〇〇窓口の了承済み」となら記載していただいて良いですよ。
あ、患者さんには、出来れば次回以降は他の病院をお探しいただくようご提案してみてください。
これにて決着です！
・・・このような経緯を経て、病院と薬局で合算して上限5000円の窓口負担とすることが出来たのでした。
なんとかなった患者さんと病院のその後
さて、役所たらい回しの後、翌日来局されたMさんに事の顛末をお話しし、
「歩いて行けるのが良かったけど、病院が他に行けと言うなら（可哀そうすぎる）、やっぱり最初に教えてもらった病院にタクシーで行くようにするわ」
とのことで、Mさん自身も納得してくださいました。
年金暮らしのMさんが徒歩圏内の病院に行きたかったという気持ちは痛いほど分かるのですが、A病院に「54公費は取り扱わない」と宣言されては、これ以上なんともして差し上げられませんでした。。。
あれから3年ほど経過し、私も職場を変わり、今はA病院と関わることもなくなりました。件のA病院は、調べたところ、今現在も難病の指定医療機関としての登録は取り下げていません。
現在はあの開業医があの一件を受けて【54】を取り扱えるようになったのか気になるような、どうでも良いような。。。と思い出すと何とも虚しい気持ちになるのでした（苦笑）
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