今回は「薬効のない薬」が単独で処方された場合のレセコン入力についてです。
広域で受けている薬局で働いていた期間が長く、今まであまりこういう処方せんに遭遇することがなかったのですが、転職して在宅・居宅をメインにやっているとこんな処方せんに出会うんですね。
「プラセボのみ」の処方が。。。
※プラセボ:有効成分が入っていないもの。薬としての効き目のない乳糖やでんぷんなどを散剤や錠剤やカプセル剤などにし、薬のようにみせたもの。
「薬効のない薬のみ」の処方せん、とは
今回の処方せんはこちら。
本当は薬を飲む必要がない健康状態なのですが、「患者さん自身が薬を飲みたがる」「何か薬を飲まないと落ち着かない」という施設入居者さんに、プラセボとして乳糖だけの処方がありました。
もちろん本人には薬効がないことは内緒です。お渡しする薬情や手帳の記載にも気づかれぬよう配慮が必要になります。点数について考えるにも、書類を作成するにも、通常のレセコン入力より気を使うこの類の処方せん・・・。
乳糖って小児の粉薬とかで1回量が少なすぎて飲みにくい時の賦形剤として使用したり、分包機の清掃に使ったりするやつですね。簡単に言えば「薬効を持たないただの粉」です。
↑添付文書の効能効果の箇所を見ても「賦形剤として調剤に用いる」とのみ書かれていて、薬効は何も記載されていません。
さて、薬効をもたない薬剤に対して通常通りの点数(調剤基本料・服薬管理指導料・調剤管理料)が算定できるのかと言えば、やはり薬効をもつ薬剤たちとは区別されるのでしょうか。何の副作用も飲み合わせも関係ないので、「薬剤師の薬学的知識」を必要としないと言えると言えば言える・・・
実は調剤事務としてそれほど経験のない頃に、同じような処方せんを受けて、先輩にこう教わったことがありました。
薬効がないものは、服薬管理料(当時は薬歴管理料という名称だったけど)は算定できないよ!そういう実例があるよ!
当時、あたふたと乳糖を量り取って「こうでいいのかなぁ?(汗)」とぼやきながらカプセルに充填していく薬剤師さんの後ろ姿を眺めながら思ったのはうさぎはこう思ったものです。
うそやん。あんなに手間と神経使って作って、カプセルだって無料で提供して(実費いただいても問題ないと思われるが無料にしていた)、管理料外さないといけんのん。。。?薬剤師さんの手間をなんだと思っているのか。。。
さて、あれから10年以上は経ちましたが、今になって本当にダメなのかちょっと気になったので追求してみることにしたのでした。
過去に福岡県の薬剤師会が通達した実例がこちら
「薬効のない薬」に関しての実例を今になって探して探して、やっと発見したのがこちらです。福岡県の県薬会報。なんと2015年の資料です。
https://www.fpa.or.jp/library/iryohoken/sinsa201501.pdf
ふくおか県薬会報 Vol.28 No.1(2015)より引用
上記リンク↑の4枚目(18ページ)のPDFに詳しく書かれています。(10年前の調剤報酬の名称なので、今見るとやや頭が混乱しますが…)
効能効果のない薬品について算定できるものは「調剤基本料」と「薬剤料」のみと明記されていますね。
この2015年の福岡県薬の通達に従うなら、調剤事務としては、レセコン入力ではデフォルトで算定されている「服薬管理指導料」と「調剤管理料」は手作業で外さなければ返戻もしくは減点の対象となることになりますね。ややこしいです。
忙しい時間帯にこういった処方せんが舞い込むとスルーして算定しちゃいそうなので注意が必要ということになります。
ちなみにもし夜間休日加算の対象となる時間帯に受付けた場合。夜間休日加算は「処方せん受付1回につき」という条件で算定できるので、調剤基本料同様に算定OKと考えて差支えなしと考えられます。
で・・・、です。私が先輩に「薬効のない薬は管理料はとれない」と言われたのが約10年前、確かにこの福岡県薬の通達も約10年前。果たして今もこれがスタンダードなのか?
2024年、支払基金にことの真偽を確かめてみました
こういう疑問は社内や仲間内でああだこうだ言うより、審査機関に実際どうなのか聞くのが一番手っ取り早いものです。薬剤師会に問い合わせたって不確実。「最終的には審査機関が判断します」という定型文を添えて返答されます。実際にお金を支払ってくれているのは審査機関なのです。
ということで、ことの真偽を再確認のために、記事冒頭の処方せんレセプトを提出する予定だった社会保険診療報酬支払基金(以下、支払基金)に「薬効のない薬」の調剤報酬について確認の電話をしてみました。
その返答は・・・
当機関では乳糖のような薬効のないお薬のみのレセプトでも、「服薬指導管理料」「調剤管理料」は算定していただいて差し支えありません。
夜間休日加算も算定して大丈夫です。
あくまで現時点での話なので「今後もずっとOK」とは言えませんが、今のところ算定が認めらます。
なんと・・・。
私自身10年前に先輩に「乳糖だけでは薬歴管理料や調剤料はとれないよ」と教わったし、先述した福岡県の薬剤師会も10年前には「とれない」と言っていますが、直接審査機関に問い合わせるとこの返答です。こういうどんでん返しがあると、問い合わせてみた甲斐があります。
こういう地域差や審査員差は本当に何とかならないかなぁ・・・と思う例でしたね。(これについて言及した記事はこちら|レセプト審査機関、AIになぁ~れ)
ということで、問い合わせの甲斐あり今回は通常の処方せん同様に「服薬指導管理料」「調剤管理料」を算定してレセプト提出し(念のため支払基金に確認済みの旨をレセプト摘要欄に入れました)、無事に減点も返戻もなく入金されました。※生活保護の患者さんだったので後から訂正が可能だったのです。。。窓口で負担のある患者さんだったら即対応が難しかったので算定しなかったでしょうね
めでたしめでたし、です。すごい大きい金額というわけではないのですが、薬剤師さんの業務を過小評価されるのは嫌なので、やったこと相応の点数を算定できるのは嬉しいですよね。
というか、プラセボを処方するときって薬局側としてもすごく気を遣うし、カプセルに乳糖充填する場合なんて薬剤師さん大変すぎるし、逆に【プラセボ調剤加算】なるものがあってもいいんじゃないんですかね。というのが本心だったりします。
薬効の認められないお薬にご用心
ということで、10年前は「算定できない」と教わった件が、今になって実はOKだったという例を紹介しました。
あくまで「地域差ありの可能性」は捨てきれないので、ご自身がレセプトを提出する審査機関の審査基準が厳しいかどうかはご考慮ください。審査機関って親切に返答してくれるので(薬剤師会より親切なので怖がらなくていいです!)、気になる人は一度問い合わせてみるといいかと思います。
最後に。プラセボ単独ではなく、他にも薬効のある医薬品が一緒に処方されていたら、もちろん服薬管理指導料・調剤管理料は算定してOKです。
余談ですが、この処方せんを受けて「もしかしてプロペトや白色ワセリン単独の処方って結構くるけど、今回の乳糖みたいしないといけなかったのかも・・・!?」と一瞬焦りを蒸し返しましたが、プロペトの添付文書を見ると、ちゃんと効能効果欄に「皮膚保護剤として用いる」と書かれていて安心したのでした(苦笑)。